【卒業論文】

「シロアリの腸内に共生する各種嫌気性細菌と尿酸分解細菌の単離」

1630930131 鈴木 勝幸

【概要】
 シロアリは陸上生態系の中で枯死植物の分解に重要な役割を果たしており、特に現存量の多い熱帯地方では生態系における物質循環を支える重要な生物であるといえる。シロアリは主に未利用難分解性であるセルロース、リグニン等からなる植物遺体を主要な食糧源としており、原生動物・バクテリア等の腸内微生物との共同作業によるセルロースの分解は古くから共生の典型例として良く知られている。
 いずれの生物でも細胞の主成分はタンパク質であり、細胞構成成分のC/N(炭素/窒素)比は約5程度であり、極端な差はない。しかし、シロアリの食する枯死植物は、炭素含有量に比べ窒素含有量が極端に少なく、C/N比は100以上にもなる。シロアリはその腸内に共生する微生物の働きで、空気中の分子状窒素を固定する方法の他、窒素老廃物である尿酸をリサイクルする方法により、不足する窒素を補うことでこのC/N比のインバランスを克服しているといわれている。つまり、シロアリは腸内微生物と共生関係をもつことで、枯死植物の再資源化を可能としているのである。
 本研究ではシロアリ腸内の共生系の働きを解明するため、特に尿酸のリサイクルに重要と考えられる尿酸分解能を有する細菌の性質を調べることを目的として、各種嫌気性細菌を単離し、その単離された細菌の諸性質を調べた。

【方法】
 沖縄県より採集した各種シロアリ(コウシュンシロアリ、カタンシロアリ、ダイコクシロアリ、イエシロアリ、ヤマトシロアリ、タイワンシロアリ)のワーカー(職アリ)の腸内から、嫌気条件下で栄養培地上にコロニーを形成する細菌群を単離した。また尿酸分解細菌は、尿酸を懸濁させた培地にハローを形成した菌株として単離した。そして簡単な生理学的解析および16S rRNA遺伝子の部分配列を決定し、既知の配列と比較して系統分類を行った。尿酸分解細菌については、その尿酸分解能についても調べた。

【結果】
 各シロアリから嫌気的に単離した細菌は、γ-proteobacteria、乳酸菌群、Clostridium属、Bacillus属、Bacteroides属、放線菌群と多岐に渡るものであった。また尿酸分解細菌は、Clostridium属、γ-proteobacteria、乳酸菌群等に属するものであった。そのうち、今回最も多く単離されたClostridium属に属する尿酸分解細菌の生理学的性質を調べたところ、尿酸を炭素源としては利用しないが有効な窒素源として利用していることが判明した。尿酸分解細菌は培地上にコロニーを形成する嫌気性細菌のうち、シロアリの種により約1%から多いもので約50%を占めており、シロアリ共生系において主要な細菌群であると考えられる。

(卒業論文要旨)

←戻る


「シロアリの腸内に共生する各種嫌気性細菌と尿酸分解細菌の単離」

 シロアリは陸上生態系の中で枯死植物の分解に重要な役割を果たしており、特に現存量の多い熱帯地方では生態系における物質循環を支える重要な生物であるといえる。シロアリは主に未利用難分解性であるセルロース、リグニン等からなる植物遺体を主要な食糧源としており、原生動物・バクテリア等の腸内微生物との共同作業によるセルロースの分解は古くから共生の典型例として良く知られている。
 いずれの生物でも細胞の主成分はタンパク質であり、細胞構成成分のC/N(炭素/窒素)比は約5程度であり、極端な差はない。しかし、シロアリの主食である枯死植物はC/N比が100以上にもなるため、シロアリは何らかの方法でこのインバランスを埋める、つまり「C−Nバランス」をしなければならない。その方法としては、Nをつけ加えるかまたは大量に餌を食べて選択的にCを除くことにより、不足するNの割合を上げることで、シロアリの生体を構成している組織のC/N比に合わせることができる。

 しかし、本実験で主に使用する下等シロアリは、枯死植物のなかに巣を作り、それ自体を餌とするワンピース・タイプなため、大量に餌を食べてCを選択的に放出し、Nの濃度を高める方法は、自分の巣を早期に破壊してしまうために取りづらい。そこで、下等シロアリは不足するNを付け加える方法を主にとっていると考えられるが、シロアリ自身にその能力はないため、腸内共生微生物に頼ることとなる。その方法としては、空気中の分子状窒素を固定する経路と、シロアリの出す排泄物に含まれる窒素をリサイクルする経路が考えられる。実際に、シロアリの腸内には窒素固定細菌の存在が確認されている。また、シロアリの窒素老廃物である尿酸は、糞と共に排泄されるはずである。しかし、シロアリは尿酸を分解する酵素を持っていないが、糞の中に尿酸がほとんど含まれていない。これは、シロアリの腸内共生細菌が尿酸を分解し、その分解産物をシロアリが取り込み、再び利用しているためであると考えられている。
 つまり、シロアリは腸内微生物と共生関係をもつことで、セルロースの分解だけでなく、窒素の確保という二大難問を解決し、枯死植物の再資源化を可能としているのである。このように共生系は様々な微生物間の相互作用により維持されている。

 本研究ではシロアリ腸内の共生系の機構を解明するため、特に尿酸のリサイクルに重要と考えられる尿酸分解能を有する細菌の機能を解明することを目的として、各種嫌気性細菌を分離し、その分離された細菌の諸性質を調べた。
 沖縄県から採集した各種シロアリの職アリ腸内から、嫌気条件下で栄養培地上に集落を形成する細菌群を分離した。また尿酸分解細菌は、不溶性の尿酸を懸濁させ不透明となった培地に、尿酸を分解することによりクリアゾーンを形成する菌株として分離した。そして生理学的解析および16S rRNA遺伝子の部分配列を決定し、既知の配列と比較して系統分類を行った。さらに、尿酸分解能についても調べた。

 その結果、各シロアリから嫌気的に分離した細菌はBacillus属、Bacteroides属、Clostridium属、γ-proteobacteria、乳酸菌群など、多岐に渡るものであった。また尿酸分解細菌は、Clostridium属、γ-proteobacteria、乳酸菌群に属するものであった。そのうち、今回最も多く単離されたClostridium属に属する尿酸分解細菌の生理学的性質を調べたところ、尿酸を炭素源としては利用しないが、有効な窒素源として利用していることが判明した。尿酸分解細菌は培地上に成育する嫌気性細菌のうち、シロアリの種により約1%から多いもので約50%を占めており、シロアリ共生系において主要な細菌群であると考えられる。

 本結果により、生物のC/N比を調節する機構、つまり尿酸のリサイクルという点でのシロアリと腸内微生物の共生関係の解明の糸口がつかめたと考えられる。また、現在まで尿酸の嫌気的分解についての報告は非常に少ないが、本研究は嫌気的な尿酸分解経路の解明をするための第一歩であると言える。また地球環境保全、食糧増産などに関与する生態系における窒素源の確保は重要な問題である。シロアリ生態系は窒素老廃物として尿酸を生成する昆虫類や鳥類などの、微生物による尿酸のリサイクルを研究するモデルとしても応用できることなどから、この共生系を研究することは大変有意義なことであると考えられる。

(校友会学生研究奨励基金授与論文概要集 収録)

←戻る


【日本農芸化学会】

1997年度大会発表(東京)

「シロアリの腸内に共生する各種嫌気性細菌と尿酸分解細菌の単離」

○鈴木勝幸1,2、野田悟子1,2、大熊盛也1、宇佐美論2、掘越弘毅2、工藤俊章1
(1理研・微生物、2東洋大・工)

 シロアリの食する枯死植物は、炭素源は豊富だが窒素源が欠乏している。シロアリは腸内に共生する微生物の働きで、空気中の窒素を固定する方法の他、窒素老廃物である尿酸をリサイクルする方法により、不足する窒素源を補っている。シロアリの腸内の共生系の働きを理解するため、特に尿酸のリサイクルに重要と考えられる尿酸分解能を有する細菌の性質を調べることを目的として、各種嫌気性細菌を単離した。

 各種シロアリの腸内から嫌気的に栄養培地上でコロニーを形成する細菌群を単離し、簡単な生理試験と16S rRNA遺伝子の部分配列を解析した。その結果、Bacillus属、Bacteroides属、Clostridium属、γ-Proteobacteria、Streptococcus属、乳酸菌群等に属する菌株を単離した。また尿酸分解細菌は尿酸培地にハローを形成した菌株として単離したところ、Clostridium属、Streptococcus属、γ-Proteobacteriaに属するものであった。尿酸分解細菌はコロニーを形成する嫌気性細菌のうち、シロアリの種により約10%から多いもので約50%を占めており、シロアリ共生系において主要な細菌群であると考えられる。

Keywords: symbiosis, phylogeny, termite

(日本農芸化学会1997年度大会講演要旨集 収録)


シロアリの腸内に共生する各種嫌気性細菌と尿酸分解細菌の単離

シロアリ  特に熱帯雨林で最も量の多い動物
      植物遺体の効率的な再資源化(バイオリサイクル)

  嫌気性微生物を腸内に共生させている
  植物遺体は窒素源がきわめて乏しい
  窒素老廃物は尿酸として排泄される

 尿酸分解細菌としてClostridium属、Streptococcus属、γ-Proteobacteriaのものを嫌気条件下で単離した。
 尿酸分解細菌は、シロアリの種により多いもので単離できた嫌気性細菌の約50%を占めていた。

 シロアリは腸内の尿酸分解細菌と共生関係を結ぶことによって窒素老廃物である尿酸を再資源化 (リサイクル)している。

(日本農芸化学会1997年度大会一般講演トピックス集 収録)

←戻る


1998年度大会発表(名古屋)

「各種シロアリ腸内に共生する尿酸分解細菌の単離と性質」

○鈴木勝幸1,2、大熊盛也1、宇佐美論2、掘越弘毅2、工藤俊章1
(1理研・微生物、2東洋大・工)

 シロアリの食する枯死植物は、炭素源は豊富だが窒素源が欠乏している。シロアリは腸内共生微生物の働きで、空気中窒素の固定の他、窒素老廃物である尿酸をリサイクルする方法により、窒素源を補っている。そこで尿酸のリサイクルに重要と考えられる尿酸分解能を有する細菌の機能を解明するため、シロアリ腸内より尿酸分解細菌を単離し、その性質を調べた。

 沖縄県より採集した4科9種のシロアリ腸内から、嫌気的条件下で尿酸含有培地にハローを形成する菌株を単離した。さらにそれらの生理学的性質と16S rRNA遺伝子の部分塩基配列を調べたところ、γ-Proteobacteria (6種)、Clostridium属 (4種)、乳酸菌群 (2種)、Staphylococcus属 (1種) であった。このうちClostridium属の尿酸分解細菌は多くの種類のシロアリから取得された。またそれらのうち少なくとも数株は尿酸を有効な窒素源として利用していた。

 尿酸分解細菌はシロアリの系統に関わらず単離されており、シロアリ共生系において主要な細菌群であるということが示唆された。

Keyword: symbiosis, phylogeny, termite

(日本農芸化学会1998年度大会講演要旨集 収録)

←戻る


【修士論文】

「シロアリの腸内に共生する尿酸分解細菌に関する研究」

応用化学専攻(学籍番号:1063970001)  鈴木 勝幸 (指導教員:掘越弘毅)

【概要】
 シロアリは陸上生態系の中で枯死植物の分解に重要な役割を果たしている。シロアリは主に未利用難分解性であるセルロース、リグニン等からなる植物遺体を主要な食糧源としており、原生動物・細菌等の腸内微生物との共同作業によるセルロースの分解は古くから共生の典型例として良く知られている。

 いずれの生物でも細胞の主成分はタンパク質であり、細胞構成成分のC/N(炭素/窒素)比は約5程度であり、極端な差はない。しかし、シロアリの食する枯死植物は、炭素含有量に比べ窒素含有量が極端に少なく、C/N比は100以上にもなる。シロアリはその腸内に共生する微生物の働きで、空気中の分子状窒素を固定する方法の他、窒素老廃物である尿酸を分解・再利用する方法により、不足する窒素を補うことでこのC/N比のアンバランスを克服しているといわれている。窒素固定細菌に関しては、窒素固定に関連する酵素や遺伝子の知見は多い。しかし尿酸分解細菌に関しては、シロアリ腸内からの単離例はあるものの、ほとんど研究が進んでいない。

 本研究では各種シロアリ腸内から、C/Nバランス問題の解決に重要な働きをしていると推察される、尿酸分解細菌を単離してそれらの菌株の分類を行い、また諸性質を調べた。

【方法】
 沖縄県西表島および鹿児島県屋久島より採集した4科9種のシロアリの腸内から、嫌気条件下で尿酸懸濁培地にハローを形成した菌株を単離した。そして生理学的性質および16S rDNAの部分配列を調べて比較することで単離菌株の分類を行った。

 またもっとも多くのシロアリから単離されたClostridium 属の菌株について、より詳しい分類・同定試験を行い、また培養的挙動も調べた。

【結果/考察】
 各シロアリから計153株の尿酸分解細菌を単離した。尿酸分解細菌はシロアリの系統に関わらず単離されており (Table A)、シロアリ共生系において主要な細菌群であると考えられる。

Table A. シロアリ腸内の尿酸分解細菌の存在率

シロアリ

存在率* / %

ニトベシロアリ
タカサゴシロアリ
タイワンシロアリ
イエシロアリ
ダイコクシロアリ
カタンシロアリ
コウシュンシロアリ
オオシロアリ

Not detected
2.0
9.5
4.9
1.2
0.6
48.6
0.1

* : 尿酸含有培地上に生育した菌株のうちハローを形成した菌株の割合

 また生理学的性質と16S rDNAの解析の結果、単離した尿酸分解細菌は3つのグループ(腸内細菌群、低GCグラム陽性球菌、Clostridium 属)に分類されることがわかった。

Table B. 単離した尿酸分解細菌の分類種数

シロアリ種

group

A

B

C

タカサゴシロアリ
タイワンシロアリ
イエシロアリ
ダイコクシロアリ
カタンシロアリ
コウシュンシロアリ
オオシロアリ

3

3
1

2


2
1

1
1
1
2

1
2

groupA: 腸内細菌群、groupB: 低GCグラム陽性球菌、groupC: Clostridium

 今回最も多く単離されたClostridium 属に分類される、コウシュンシロアリから単離した尿酸分解細菌NkU-1株のより詳しい同定試験を行った。

Table C. Clostridium sp. strain NkU-1 の生理学的性質

Gram stain
Shape
Cell size / μm
Motility
Endspore
Growth of aerobically
Growth of anaerobically
G+C content
Production of catalase
Production of oxydase
Major product from PYG
Degradation of uric acid

Positive
Rod
2.0-4.0x0.8-1.0
+
+ (terminal)
-
+
41.1±1.2
-
-
acetate
+


Fig A. 16S rDNAによる系統樹
(clostridial cluster XIVa)


Fig B. DNA-DNAドットハイブリダイゼーション

 生理学的性質 (Table C)、16S rDNAの解析 (Fig A)、DNA-DNAドットハイブリダイゼーション (Fig B) の結果から、尿酸分解細菌NkU-1株は、Clostridium 属 cluster XIVa に分類される新種の菌株であると考えられた。

 またNkU-1株は、尿酸および尿酸に類似したプリン誘導体を、炭素源としては利用しないが有効な窒素源として利用していることを明らかにした。さらに、培地中の尿酸はアンモニアにまで分解されていることが示唆された。


Fig C. Clostridium sp. strain NkU-1 の尿酸分解とアンモニア生成


【発表】
・○鈴木勝幸、野田悟子、大熊盛也、宇佐美論、掘越弘毅、工藤俊章 日本農芸化学会 1997年4月(東京)
・○鈴木勝幸、大熊盛也、宇佐美論、掘越弘毅、工藤俊章      日本農芸化学会 1998年4月(名古屋)

←戻る